唇を隠して,それでも君に恋したい。



「伊織?」



何でもないよ。

別に,僕だってそんなに物分かりが悪いわけじゃない。

僕が近寄りたくないからって,皆までそうする理由はないし。

皆と仲良くする和寧だって,何も悪いところはない。

でも,だとしても。



「そんなに気にしなくても大丈夫だ。俺たちだって誰でも彼でも輪に入れてやるわけじゃないから」



敦は僕と目を合わさないように,独り言みたいにして言った。

その気遣いにカッと,引き絞った唇に力が入る。



「僕はそんなつもりじゃ」

「ああ。分かってる」



皆のそばは,僕がようやく手に入れた僕の居場所。

敦がくれた,敦のいる居場所。

そんなところに安易に立ち入られたくないなんて,そんなこと思ってたわけじゃない。

強がって出した否定の言葉を,敦はあっさりと受け流した。

それが気に入らなくて,コツンと小さく敦を小突く。
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