唇を隠して,それでも君に恋したい。
君のもとに,素直に飛び込める時間は長い方がいいから。
「あらら。全部顔に出しちゃって」
「なに」
振り返って,和寧をむすっと見た。
今までの不機嫌と違って,照れ隠しみたいなものだ。
分かってる,隠しているくせに,好意が全て態度に少し出てしまっているのも。
でもいいんだ。
僕にとって敦が特別なのは,どうしよもない事実だから。
近付けるときに近付くのは,当たり前でしょ。
「早く行きなよ。こんな密室でわざわざ二人きりなんて,誤解されたくないやろ?」
「うん。ごめん。話はまた今度にしてくれると助かる」
「そうやな。まだ時間はたっぷりある。今日はただ,僕も伊織と同じS·Pなんだって知ってほしかっただけやから」
「うん」
僕は知れて良かったと思うよ。
僕とはやっぱり正反対だけど,君の見方が少しだけ変わったから。
「伊織は……いつまでなら耐えられる?」
「?」
引き留めるような言葉に振り返ると,そこには悔しげで切ない表情があった。