唇を隠して,それでも君に恋したい。
ボクの想いをシルヒト。
「海,皆楽しそうやったな」
「そうだね。君もだけど。……寒いだろうに」
「そりゃー泳ぎって言ったら僕やろ? 小学生の頃なんて学年一やったんやけん」
和寧がカラカラと笑い寛ぐのは,皆が風呂に向かった旅館の大部屋の敷布団。
僕は適当に個室風呂の準備をしながら話に付き合った。
「伊織もちょっとくらい入ればよかったのに」
「やだね。僕はラインが出る服は着たくない」
海での自由時間は,後にマリンスポーツが控えていたため,ラッシュガードでの参加だった。
和寧は何も気にせず楽しんでいたようだが,僕は少しでもバストの膨らみを知られたくなかったため,体育と同様欠席。
生理だという女子や海に入りたくないからと生理を偽称する女子と共に文化体験としてだるまの目玉を描く体験をした。
不可思議そうに僕を見る視線には慣れている。
もくもくと作業していれば,あとは何も気にならなかった。
「おめでとう」
思わず櫛を落とす。
ぎろりと恨めしげに視線を向け,僕はきゅっと唇をかんだ。