唇を隠して,それでも君に恋したい。


「あつ……」



耳のこの熱さが,目敏い彼の目に映っていないといいけど。



「俺も入ろっかな~」

「だめに決まってるでしょ」



同性の誰より好きな恋人ができたのに。

約束通り君と風呂になんて入れない。

しばらくすると,ざわざわと騒がしい音が聞こえてきた。

もうそんなにと思いながら風呂から上がる。

何をそんなに騒いでいるんだろう。

僕は髪を拭きながら皆のもとへ向かった。



「何してるの?」



思わず呆れた声を出してしまった先にいるのは,湯上がりで頬を上気させた三太。

が,はしゃぎながら布団を引きずっている。



「いやー俺二段ベッドの上だからさ! 敷布団大好きなんだよ!!」

「ちょっと三太いい加減にして。埃が舞うから」



スズも夜まで母親業をやってられないのか,珍しく眉を深くしていた。



「ふふ」



そんな馬鹿げた光景にも,修学旅行効果なのか笑ってしまう。

そんな僕に,敦がそっと寄ってきていた。



「髪,そろそろ乾かさないと風邪引くぞ」



つままれた毛束。



「う,ああ」



かつてない距離感にどきりとする。

湿った毛先から首筋にぽつりと水滴が落ちて,僕はタオルを持つ手に力を込めた。



「あそうだ。寝る場所適当に決めちゃっていい?」



スズの声に,洗面所に行くのを止める。

振り返って,少し考えてから



「僕寝相悪いから。壁際がいい」



と要望を伝える。

ベッドなら落ちるだけで済むけど敷布団と雑魚寝となれば話は別。

わざわざ真ん中で寝て,あちこち蹴飛ばす趣味はない。

僕の言葉にスズはこくんと頷いた。



「んじゃあその隣から決めるか……」



その呟きに,隣の男が反応する。

僕は小さな予感にとっさに口を開いた。



「和寧で」

「いやそんなホストの指名みたいに言われても。僕の分まで君が決めるん?? まぁそうだよね,伊織は僕よな~ー」



仕方ないなぁとでも言い出しそうなにやにやした声色が鼻につく。

僕がじとりと目線で抗議すると

"照れ屋め"

と余計な口パクを返してきた。



「なんで」



ぎくりと肩をすぼめる。

隣から聞こえる小さくも不満げな声はもちろん敦のものだ。

僕が彼の言葉を意識的に遮ったことにももちろん気づいただろうし,わざわざ隣に和寧を指名したことも気に入らないのだろう。

別に敦や……リューでなければ誰でもよかった。

和寧を選んだ事に深い意味はない。

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