クズ男に囚われたら。
それに、わたしが行かなくたって瀬能にはいくらでも他の子がいるしね。
なんて強がってはみるけれど、少し油断すればいつものようにあの音楽室へと吸い寄せられてしまいそう。
瀬能のピアノ、今日は聴きに行かない。
瀬能には、会いに行かない。
自分で勝手に決めたくせにその事実に少し寂しさを感じるのは、わたしが瀬能遊という男にまんまとハマってしまっているからだろうか。
……でも、まぁ。またにはそんな日を作ってみるのも悪くない。
「じゃあ七帆ちゃん、今日の放課後は栞と遊ぼうよ。今日狙ってた新作のワンピの発売日だから、ちょうどお買い物行きたかったんだ〜」
「うん、いいよ。行こ」
「やった!」
ルンルンな栞が可愛くて思わず笑みが溢れる。
栞に誘われたのもあって、わたしは瀬能と出会ってから初めて、放課後の音楽室に行かなかった。