クズ男に囚われたら。
「ど下手くそ」
「っ!?」
と、その直後、背後から聞こえてきた声に肩が跳ねる。
「な、な……っ、いつから……」
「橘花が蓋あけて"ファ"弾いた時から」
「……つまり最初からね」
ドアに寄りかかって偉そうにこっちを見てくるあたり、きっと高みの見物のつもりか何かなんだろう。
あぁ、もう。変なとこ見ないでよ、バカ瀬能。
深めのため息を吐きながら、ピアノの蓋を閉じる。
「……で?今日は遅かったね。女の子と遊んでた?それとも、昨日来なかったわたしへの嫌がらせ?」
わたしの皆無な音楽センスを誤魔化すかのように、考えるよりも先に早口でそのセリフが出た。
「橘花はどっちがよかった?」
「……別に?わたしには関係ないし」
「ふーん。あっそ」
つまんねぇ、と小さな声が聞こえた気がした。
ああ、そう。つまりはわたしをからかったのね。