クズ男に囚われたら。


ピアノなんて、『ねこふんじゃった』が弾ける程度だ。

鍵盤に触るのだって小学校の音楽の授業以来ない気がする。


いつも、わたしは瀬能のピアノを聴くだけだったから。

ほぼ毎日聴いていた瀬能のピアノが今日も聴けないとなると、それは素直に寂しい……なんて思ってみたり。


閉じていた蓋を開けて、ポーン、と白い一本の鍵盤を叩いてみた。


が、無機質なただの音がこの部屋に響くだけ。

いつも聴いている心地良いメロディーが聞こえてくるはずもない。


「どーやって弾いてんだろう……」

何個か連続で音を出してみても、センスのかけらもない。


それならばと、しっかり椅子に座った状態で久々に『ねこふんじゃった』を弾いてみようと試みたが序盤で躓いた。


「あれ、こんなに難しかったっけ?」

小学生の時はもう少し早く弾けたはずなのに、今はその半分以下のスピードでもまともに弾けていない。


確かこのあと、左手を右手側に移動させて……っと。


「……あ、無理だコレ」


ちょっと自分で頑張ってみようと思ったものの、考えれば考えるほど意味がわからなくなってしまってすぐに諦めた。


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