クズ男に囚われたら。
「で、橘花」
「……なに?」
瀬能の長い指がわたしの手の上をなぞった瞬間、察した。
────あぁ、やっぱりか。
いくらピアノに対しては真剣でも、所詮はクズ男。
「ドキドキしてんでしょ、この状況」
「……っ、わかっててやってるなら離れて」
「ははっ、素直」
2人だけの旧音楽室。
ピアノの前に座るわたしに、わざわざ背後から抱きしめるような態勢で教えてくれた瀬能は確信犯だ。
「七帆、こっち向いて」
耳もとで瀬能の声が響く。
ここで振り向いたら負けだ。そう。わかってる。
「……クズ男」
「でも、こっち向くんだ?」
それなのにわたしは、依存症だから。
振り向いた瞬間に降ってきた唇の熱を受け入れることを選んでしまうんだ。