極上ドクターは再会したママとベビーを深い愛で包み込む
「申し送りは終わってるでしょ?早く準備して帰ろ」
「うん、時間ってあっという間に過ぎちゃうね」
名残惜しくて茉由ちゃんに目をやると、理沙はくすくすと笑う。
「本当に子どもが好きね。注意しなきゃ二十四時間ここで働いてそうだわ」
「そうかも。だってすごく可愛くて癒されるんだもん」
「いいお母さんになりそうだよね、菜乃花は」
……なれたらいいんだけどね。
複雑な気持ちになって、曖昧に微笑んだ。
お母さんになる以前の問題があるんだよなあ……なんて言えるわけもなく、代わりに小さなため息が漏れる。
「お疲れ様」
耳慣れた低い声が聞こえ、スマートな靴音が近づいてきた。
私と理沙が後方に視線を向けると、白衣を身に纏った長身の男性が颯爽と歩いてくる。
「お疲れ様です、篠宮先生」
理沙の声のトーンが上がった気がするのは勘違いじゃないだろう。
やって来たのは心臓血管外科医の篠宮拓海(しのみやたくみ)先生だ。
清潔感のある短めの黒髪からはナチュラルな眉が覗き、切れ長の一重瞼の目は薄い涙袋が入っていて穏やかな印象を醸し出している。精巧に造られた人形のように整った鼻筋と唇はバランスがよく、シャープに尖った顎先が男らしい。
彼はこの桜ヶ丘総合病院の院長のご子息――つまりは跡取りであり、院内随一のイケメンと言われている有名人だ。スタッフにも患者にもファンは多く、理沙も『篠宮先生推し』のひとり。かく言う私も先生の憧れている女のひとりだけれど、理沙や他のスタッフのようにキャーキャーと黄色い声を上げることはない。こっそり憧れを抱いているだけの、気持ち悪い隠れファンだ。
GCU内の女性陣の熱い視線を知ってか知らずか、篠宮先生はコットの中の茉由ちゃんを覗き込み、表情を緩める。茉由ちゃんは生まれてすぐ心臓の手術をしたため、篠宮先生が毎日見にくるのだ。
「何か変わったところは?」
「いえ特に。あ、お母様が退院時期について気にしておられましたよ」
「そうか」と呟いた篠宮先生は、時計を見る。
「あとで三上先生と相談してみる。次の面会は?」
「明日の十四時ごろに授乳指導でいらっしゃる予定です」
三上先生というのは、茉由ちゃんを担当する新生児科医だ。
篠宮先生は顎に手を当てて少し黙ったあと、こちらに顔を向ける。
「じゃあその時間に来られるようにする。明日の担当に引き継いでおいてくれ」
「承知しました」
篠宮先生は白衣を翻してコットの脇へ行き、デスクで電子カルテの確認を始める。それを見ながら、理沙は私の耳に顔を寄せた。
「眼福だよねえ。帰る前に見られてよかった」
「そうだね」
声を潜めつつも興奮を隠しきれない理沙に、笑いながら小声で返す。
ルックスが整っているのはもちろんなのだけれど、先生は決して愛想のいいタイプではないのに、ベビーを見る目はとてもやさしい。そのギャップにキュンとしてしまう。三十二歳の彼はまだ独身らしいけれど、結婚して子どもが生まれたらきっと子煩悩ないい父親になるだろう。想像すると微笑ましくなる。
そんなことを考えていた翌日に訪れる事態を、この時の私は一ミリも想像していなかった。
「うん、時間ってあっという間に過ぎちゃうね」
名残惜しくて茉由ちゃんに目をやると、理沙はくすくすと笑う。
「本当に子どもが好きね。注意しなきゃ二十四時間ここで働いてそうだわ」
「そうかも。だってすごく可愛くて癒されるんだもん」
「いいお母さんになりそうだよね、菜乃花は」
……なれたらいいんだけどね。
複雑な気持ちになって、曖昧に微笑んだ。
お母さんになる以前の問題があるんだよなあ……なんて言えるわけもなく、代わりに小さなため息が漏れる。
「お疲れ様」
耳慣れた低い声が聞こえ、スマートな靴音が近づいてきた。
私と理沙が後方に視線を向けると、白衣を身に纏った長身の男性が颯爽と歩いてくる。
「お疲れ様です、篠宮先生」
理沙の声のトーンが上がった気がするのは勘違いじゃないだろう。
やって来たのは心臓血管外科医の篠宮拓海(しのみやたくみ)先生だ。
清潔感のある短めの黒髪からはナチュラルな眉が覗き、切れ長の一重瞼の目は薄い涙袋が入っていて穏やかな印象を醸し出している。精巧に造られた人形のように整った鼻筋と唇はバランスがよく、シャープに尖った顎先が男らしい。
彼はこの桜ヶ丘総合病院の院長のご子息――つまりは跡取りであり、院内随一のイケメンと言われている有名人だ。スタッフにも患者にもファンは多く、理沙も『篠宮先生推し』のひとり。かく言う私も先生の憧れている女のひとりだけれど、理沙や他のスタッフのようにキャーキャーと黄色い声を上げることはない。こっそり憧れを抱いているだけの、気持ち悪い隠れファンだ。
GCU内の女性陣の熱い視線を知ってか知らずか、篠宮先生はコットの中の茉由ちゃんを覗き込み、表情を緩める。茉由ちゃんは生まれてすぐ心臓の手術をしたため、篠宮先生が毎日見にくるのだ。
「何か変わったところは?」
「いえ特に。あ、お母様が退院時期について気にしておられましたよ」
「そうか」と呟いた篠宮先生は、時計を見る。
「あとで三上先生と相談してみる。次の面会は?」
「明日の十四時ごろに授乳指導でいらっしゃる予定です」
三上先生というのは、茉由ちゃんを担当する新生児科医だ。
篠宮先生は顎に手を当てて少し黙ったあと、こちらに顔を向ける。
「じゃあその時間に来られるようにする。明日の担当に引き継いでおいてくれ」
「承知しました」
篠宮先生は白衣を翻してコットの脇へ行き、デスクで電子カルテの確認を始める。それを見ながら、理沙は私の耳に顔を寄せた。
「眼福だよねえ。帰る前に見られてよかった」
「そうだね」
声を潜めつつも興奮を隠しきれない理沙に、笑いながら小声で返す。
ルックスが整っているのはもちろんなのだけれど、先生は決して愛想のいいタイプではないのに、ベビーを見る目はとてもやさしい。そのギャップにキュンとしてしまう。三十二歳の彼はまだ独身らしいけれど、結婚して子どもが生まれたらきっと子煩悩ないい父親になるだろう。想像すると微笑ましくなる。
そんなことを考えていた翌日に訪れる事態を、この時の私は一ミリも想像していなかった。