極上ドクターは臆病な彼女に永遠の愛を誓う
「申し送りは終わってるんだから、元気くんのお着替えも私がやるわよ」
「はい…時間ってあっという間に過ぎちゃいますねえ」

名残惜しくて元気くんに目をやると、上原さんはくすくすと笑う。

「小鳥遊さんは本当に子どもが好きね。注意しなきゃ24時間ここで働いてそうだわ」
「そうかもしれないです。あまりにもかわいくて、癒されるので」
「いいお母さんになりそうよねえ、小鳥遊さんは」
「……なれたら、いいんですけどね」

複雑な気持ちになって、曖昧に微笑みながら返した。
お母さんになる以前の問題があるんだよなあ……
なんて言えるわけもなく、代わりに小さなため息が漏れたけれど、上原さんには気づかれなかったようでホッとした。
誰にも言えない。誰にも知られてはいけない。
それはたとえ同性が相手でも同じことだ。
私が生涯隠し通さなければならない秘密なのだから。

「お疲れ様」

耳慣れた低い声が聞こえ、スマートな靴音が近づいてきた。
私と上原さんが後方に視線を向けると、白衣を身に纏った長身の男性が颯爽と歩いてくる。

「お疲れ様です、篠宮先生」

上原さんの声のトーンが少し上がった気がするのは勘違いじゃないだろう。
やって来たのは篠宮拓哉(しのみや たくや)先生だ。
清潔感のある短めの黒髪からはナチュラルな眉が覗き、切れ長の一重瞼の目は薄い涙袋が入っていて穏やかな印象を醸し出している。
精巧に造られた人形のように整った鼻筋と唇はバランスがよく、シャープに尖った顎先が男らしい。
新生児科の専門医である彼はこの病院の理事長の孫であり、院内一のイケメンと言われている。
ゆえに、たくさんの医師が在籍しているこの病院でも、彼のことを知らないスタッフはいないだろう。
決して愛想がいいタイプとは言えないけれど、スタッフにも患者にもファンは多い。
既婚者である上原さんも然りだ。
かく言う私も先生のファンのひとりだけれど、上原さんや他のスタッフのようにキャーキャーと黄色い声を上げることはない。
こっそり憧れを抱いている、気持ち悪い隠れファンだ。

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