極上ドクターは再会したママとベビーを深い愛で包み込む
 本当にそれでいいんだろうか。
 よく考えたら、相手が一般人の私じゃご両親も納得しないんじゃないだろうか。
 拓海さんは大病院の御曹司だ。
 どこかのご令嬢と政略結婚とかするのが普通なんじゃないだろうか。
 不安がよぎったけれど、これ以上突っ込める雰囲気ではなかったから、笑顔で返事をした。

「わかりました」

 フグのカルパッチョと仔羊のロティ、トリュフとニョッキのグラタン。デザートにクラシックオペラ。
 おいしい食事でお腹を満たしたあと、車を停めたパーキングまでの道のりを歩く。

「じゃあ俺のマンションに行こうか」
「今からですか?」
「安心しろ。君は明日も日勤だから、朝まで抱き潰したりはしない」
「だ!!」

 確かに、この前は目が覚めてもしばらく起き上がれないくらいにへろへろになっていたため、抱き潰されたら仕事に支障が出て困るのだけれど。
 いや、それ以前に……

「拓海さん、今日上下別の下着なんです」
「は?」

 声を潜めつつも必死に訴えかける私に、拓海さんは首を捻る。

「しかもさっきたくさん食べたので、お腹が出てると思うんです。下手をしたら胸よりお腹のほうが大きいんじゃないかと」
「着替えがないとかアメニティがないとか、そういうことよりそっちが気になるのか?」
「あ、そういえば……」

 拓海さんは堪えきれないとばかりにふっと噴き出し、肩を揺らして笑う。
 拓海さんがこんなに笑うのを見るのは初めてで、しばしその無邪気な笑顔に見惚れた。
 ひとしきり笑った彼は、私の後ろ髪をそっと撫でる。

「全く、君は面白くて飽きないな」

 後頭部を引き寄せられ、唇が重なった。
 周囲から黄色い声が飛んだのが聞こえて恥ずかしくなったけれど、嫌じゃない。
 むしろもっとこうしていたいと思う私は、もう憧れどころじゃなく、完全に拓海さんのことをーー。

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