極上ドクターは再会したママとベビーを深い愛で包み込む
数分の距離を歩き、先生はパーキングの手前の自動販売機でミネラルウォーターを買って私に手渡してきた。
「ずいぶん酔っているだろ。少し酔い覚ましだ」
「あ、ありがとうございます。お金を」
「いや、いい。とりあえず飲んでくれ」
申し訳ない気持ちになりながらミネラルウォーターを口にすると、アルコールとは違うさっぱりした液体が喉を通って胃に落ちていくのを感じた。
そして思いつく。
「先生、確認というのはなんでしょうか。茉由ちゃんに何かありましたか?」
先生は僅かに目を見開き、それからあきれた様子でため息を吐きながら腕を組んだ。
「確認なんてない。申し送りは済んでいるんだから、君しか把握していない重要なことはないはずだ」
「じゃあどうして……」
「助けてほしいと目が訴えていたからな。無理やり連れて行かれているのは傍目でもわかったから、声をかけたんだ」
目が訴えていた……そうかもしれない。なんとかあの場を切り抜けたかったから、声をかけてくれた篠宮先生が救世主に見えたのだ。
「もしかして恋人同士のいざこざだったか?だとしたら俺は邪魔をしてしまったか?」
「いえ、居酒屋でたまたま隣で飲んでいたひとで、本当に困っていたので助かりました。ありがとうございました」
「そうか、それなら良かったが」
丁寧に頭を下げたら、先生の安堵のため息が降ってきた。
「君の自宅はどのあたりだ?」
急な問いかけに、え、と声が漏れた。
「呂律もよく回っていないし、その足取りじゃ危ない。俺は用事があってこのパーキングに車を停めてたんだ。送って行く」
「そんな、そこまでしていただくわけには」
「ドライブがてらちょうどいい。行こう」
先生は再び腕につかまるよう促す。
頑なに拒否するのも失礼だろうし、正直なところ、今の状態ではひとりで駅へ向かい、電車に乗って帰るのは難しい。お言葉に甘えることにして、先生の腕に手を添えて歩いた。
駐車場に入ると、ご主人様の帰りを待っていた黒いセダンのライトが二度光った。
「お邪魔します」
おずおずと助手席に乗り込むと、ディフューザーの甘いムスクがほんのりと香った。
運転席の先生は早速エンジンをかける。
「道案内をしてくれ」
「はい。ええと、杉並のほうなんですが」
「まずは杉並方面に向かえばいいんだな?」
恐縮しながら「お願いします」と小さく頭を下げる。
電車だと病院から自宅までは二十分ほどだけれど、車だとこの時間帯は道が混んでいて時間がかかるだろう。申し訳なくて縮こまっていると、運転しながら先生が言う。
「余計なお世話だろうが、無理に連れて行かれそうになるほど酔うのはよくないぞ」
「おっしゃる通りです……ちょっと考え事をしてて飲みすぎてしまったみたいで。そのあと彼に声をかけられてさらに飲んだので」
「またGCUのベビーのことでも考えてたのか?君は仕事熱心だからな」
「いえ、そんなことは……あ、でも確かに子どものことは考えていたかも」
ぶつぶつと独り言を呟くと、先生は「ん?」と訝し気な声を出す。
「何か言ったか?」
「あっいえ、何も」
慌ててごまかしたけれど、先生には聞こえていなかったようで安心した。
車窓の景色はどんどん移り変わっていく。車が揺れているのか頭が揺れているのかわからないけれど、だんだん夢の中にいるような気分になってくる。
あのままあのひとにホテルにでも連れて行かれていたら、どうなっていたんだろうか。不快な顔をされて、冷たい言葉を投げつけられていたんだろうか。
「やっぱり私、誰にも、見られたく……」
「ん?何の話だ?」
先生の声がずいぶんと遠くに聞こえ、甘い香りの中、私の意識は途切れた。
「ずいぶん酔っているだろ。少し酔い覚ましだ」
「あ、ありがとうございます。お金を」
「いや、いい。とりあえず飲んでくれ」
申し訳ない気持ちになりながらミネラルウォーターを口にすると、アルコールとは違うさっぱりした液体が喉を通って胃に落ちていくのを感じた。
そして思いつく。
「先生、確認というのはなんでしょうか。茉由ちゃんに何かありましたか?」
先生は僅かに目を見開き、それからあきれた様子でため息を吐きながら腕を組んだ。
「確認なんてない。申し送りは済んでいるんだから、君しか把握していない重要なことはないはずだ」
「じゃあどうして……」
「助けてほしいと目が訴えていたからな。無理やり連れて行かれているのは傍目でもわかったから、声をかけたんだ」
目が訴えていた……そうかもしれない。なんとかあの場を切り抜けたかったから、声をかけてくれた篠宮先生が救世主に見えたのだ。
「もしかして恋人同士のいざこざだったか?だとしたら俺は邪魔をしてしまったか?」
「いえ、居酒屋でたまたま隣で飲んでいたひとで、本当に困っていたので助かりました。ありがとうございました」
「そうか、それなら良かったが」
丁寧に頭を下げたら、先生の安堵のため息が降ってきた。
「君の自宅はどのあたりだ?」
急な問いかけに、え、と声が漏れた。
「呂律もよく回っていないし、その足取りじゃ危ない。俺は用事があってこのパーキングに車を停めてたんだ。送って行く」
「そんな、そこまでしていただくわけには」
「ドライブがてらちょうどいい。行こう」
先生は再び腕につかまるよう促す。
頑なに拒否するのも失礼だろうし、正直なところ、今の状態ではひとりで駅へ向かい、電車に乗って帰るのは難しい。お言葉に甘えることにして、先生の腕に手を添えて歩いた。
駐車場に入ると、ご主人様の帰りを待っていた黒いセダンのライトが二度光った。
「お邪魔します」
おずおずと助手席に乗り込むと、ディフューザーの甘いムスクがほんのりと香った。
運転席の先生は早速エンジンをかける。
「道案内をしてくれ」
「はい。ええと、杉並のほうなんですが」
「まずは杉並方面に向かえばいいんだな?」
恐縮しながら「お願いします」と小さく頭を下げる。
電車だと病院から自宅までは二十分ほどだけれど、車だとこの時間帯は道が混んでいて時間がかかるだろう。申し訳なくて縮こまっていると、運転しながら先生が言う。
「余計なお世話だろうが、無理に連れて行かれそうになるほど酔うのはよくないぞ」
「おっしゃる通りです……ちょっと考え事をしてて飲みすぎてしまったみたいで。そのあと彼に声をかけられてさらに飲んだので」
「またGCUのベビーのことでも考えてたのか?君は仕事熱心だからな」
「いえ、そんなことは……あ、でも確かに子どものことは考えていたかも」
ぶつぶつと独り言を呟くと、先生は「ん?」と訝し気な声を出す。
「何か言ったか?」
「あっいえ、何も」
慌ててごまかしたけれど、先生には聞こえていなかったようで安心した。
車窓の景色はどんどん移り変わっていく。車が揺れているのか頭が揺れているのかわからないけれど、だんだん夢の中にいるような気分になってくる。
あのままあのひとにホテルにでも連れて行かれていたら、どうなっていたんだろうか。不快な顔をされて、冷たい言葉を投げつけられていたんだろうか。
「やっぱり私、誰にも、見られたく……」
「ん?何の話だ?」
先生の声がずいぶんと遠くに聞こえ、甘い香りの中、私の意識は途切れた。