極上ドクターは再会したママとベビーを深い愛で包み込む
 少しずつ意識がはっきりしてきて目を開くと、ぼんやりと白い天井が見えた。
当然そこに彼はいない。
 ……夢か。久しぶりにあの日の夢を見たな。胸がズキズキと痛んで、目に涙が溜まっていることに気づく。
目元を拭うと、視界の端に茶色い何かが映った。そちらを向くと、天井まで据え付けられた大きな書棚がある。
 こんなもの、私の部屋にはない。
 ぼんやりしていた頭が一気に冴えて恐怖心に襲われたとき、書棚の中に医学の専門書ばかり並んでいることに気づいた。
 ……そうだ。私、昨夜車で篠宮先生に自宅まで送ってもらっていたんだ。けれど、車の中で無言のまましばらく揺られていてちゃんと道案内をした記憶がない。もしかして私、あのまま眠ってしまったんだろうか。だとすれば、この書籍の数々を見ればここが篠宮先生の部屋であることは予想がつく。
 私、先生に迷惑をかけた……?
 ゆっくり起き上がると、身体は怠く胃がもたれている感じはあるけれど、ひどい二日酔いというほどの状態ではなさそうでホッとした。ベッドから降り、おずおずとドアを開けるとリビングダイニングへと続いていた。
「……先生?」
 広くてシンプルな室内に篠宮先生の気配はなく、しんと静まり返っている。カーテンが開いている窓からは明るい日が差し込み、外はずいぶんと遠くまでビル群が見渡せる。ドアはいくつかあるようだから、先生はどこかに別の部屋にいるかもしれない。かと言って、勝手に他の部屋を覗いて回るのも……。
どうすればいいのかと考えていると、ダイニングテーブルにメモ書きの紙を見つけた。
『途中で寝てしまったから俺の自宅に連れてきた。俺は仕事に行くから、無理をせず体調が回復してから帰宅してくれ』
 斜めあがりの走り書きと、そのそばにはカードキーらしきものが置かれている。
 やっぱりここは先生の自宅なのか……。
 首を垂れてため息を吐いた。
「私、とんでもないことを……」
 罪悪感でいっぱいだ。先生は善意で私を助けて家まで送ろうとしてくれただけなのに、まさかここまで世話を焼かされることになるとは思わなかっただろう。
 壁にかけられた時計に目をやれば、時間は九時すぎだ。私は先生が支度しているのも気づかず、のんきにこんな時がまで眠っていたのか。
 先生が当分帰ってこないことはわかっているものの、早く立ち去らないとさらに申し訳ない気がして寝室へ戻ってバッグを探そうとしたとき、何気なくベッドを見てはたと気づいた。クイーンサイズほどの大きさのこのベッドで、私と篠宮先生は一緒に眠っていたのだろうか。酔って男性の部屋に泊まり、そして同じベッドで寝ていた。それはどう考えても、よく耳にする『一夜の過ち』が起きてしまったということでは……。
 身体に目を落とせば、私は昨夜のブラウスとスカートのままだ。けれど、よく見るとブラウスの上のボタンが二つはずれている。
 もしかしたら、私――
 全身から血の気が引いていく。
 ――篠宮先生に、秘密を知られてしまったのかもしれない。

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