惑わし総長の甘美な香りに溺れて
***


「モーモ! 帰ろうぜ」


 放課後、みんなが帰る準備をしている教室に陽の明るい声が響く。

 騒がしいのに、陽の声はよく通るのか廊下から窓際までしっかり聞こえた。


 うう……目立ちたくないのに。


 みんなの視線を感じていたたまれない気持ちになる。

 でも、はじめの頃よりはマシになったよね。

 女子の間ではカッコイイ、笑顔がカワイイと。男子からも気の良いやつって感じで好感度上がりっぱなしの陽は、編入初日から人気者だ。

 そんな注目度急上昇の彼がどこからどう見ても地味としか言えない私に気安く話しかけたら何事⁉ って思われるのも当然だった。

 まあ、親の再婚で義姉弟になっただけだって説明したら落ち着いたけど。

 だとしても、私と陽が並んだときのアンバランス感は相当なものなんだろうな。

 いまだに似合わないって感じの目で見られることもあるし。


「モモー、まだー?」

「あ、ごめん。今行く」


 周りの目を気にしてたら準備する手が止まってた。

 私は急いで準備を終わらせて、陽のところへ行く。


「じゃ、帰ろっか」

「うん」


 家が同じだから一緒に帰る、というわけでなければまるで恋人同士のようなやりとりになんだかちょっとドキドキしてしまう。

 多分、私は目立つのが嫌なだけで陽と一緒に帰れるのは嫌じゃないんだ。

 懐いてくれることもあって、私も陽に好意は持ってる。

 ただ、これが家族としての好意なのか、それとも別の好意なのかは分からないけど。
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