惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「陽、まーた“姉ちゃん”と帰るのかよ? そろそろサッカー部入らねぇ?」


 教室から出て歩き出すと、隣のクラスから声が掛けられる。

 確か朝にも陽をサッカーに誘っていた男子だ。


「入らねぇって言ったじゃん。それに――」


 答えた陽は一度言葉を切って、なぜか私の肩に手を回した。


「っ⁉」

 え?


「別に“大好きな姉ちゃん”と一緒に帰ったって良いだろ? 家同じなんだし」


 言いながら、私を引き寄せて抱きしめる陽。

 カワイイ顔をしていてもやっぱり男ってことで、細マッチョなのか抱きしめられると硬い筋肉の感触がある。

 ふわっと私の好きな薔薇の香りもして、大きく心臓が跳ねた。

 ……ううん、跳ねるどころか爆発しそう。


「きゃー! “大好きな姉ちゃん”だって!」

「あんな風に陽くんに抱きしめられるとか、萌々香さんになりたーい!」


 別の方からは女子の黄色い声が聞こえて、今度はちょっと泣きたくなった。

 うう……目立ちたくないのにぃーーー!
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