君はまだ甘い!
「皆さんは目玉焼きには醤油派、それともソース派ですか?」

「・・・?」

(ま、まさか。)

マヤは先ほどのトオルの言葉を思い出した。

(『オレ、おしゃべり頑張りますね!』)

マヤの肩を掴み、真っ直ぐな視線を向け宣言していた。

「なんなんだ、いきなり?」

帝王が不機嫌そうに聞く。

「え?あ~、オレんち実家ではずっとケチャップだったんですが、この前ケチャップを切らしてて、仕方なく醤油をかけたんですよ。そしたら、これがめちゃくちゃ上手くて!それを同僚に話したら、自分はソース派だと言われて、また衝撃を受けて・・・」

「オレも醤油派やで。ケチャップはないわ~」

トオルの意図を察したのかは不明だが、機敏に反応したのはやはりルイだ。

「あ、そうなの?じゃあ、アジフライには醤油かソースどっち?それともタルタルソー・・・

「あのさぁ」

ルイの返答に調子づいて話し続けようとするトオルを遮ったのは、マックスの今日イチ大きな声だった。
彼は、先ほどからずっとスマホを操作していたその顔を上げ、妻のキョロちゃん越しに座っているトオルに、自分のスマホ画面を見せながら続けた。

「これって君だよね?」

トオルはキョロちゃんの前に出されたスマホの画面をのぞき込むと、

「あー、はい…」

と少しばつが悪そうに頭を掻きながら答えた。

「何なに??」

皆が一斉にその画面をのぞき込む。

それは動画投稿サイトのページで、バスケットボールのプレイ動画だった。
マックスのスマホが帝王やルイ達の方に引き寄せられる。

「ほんまや!これトオルやん!てか、トオルの特集やん。すげ~~」

ルイが感嘆の声を漏らしながら、画面を観ている。

聞くと、マックスはスポーツ観戦が趣味で、特にバスケは自身が学生時代プレイしていたこともありマメにチェックしている、とのこと。
トオルは実は、大学時代からバスケの世界ではそれなりの有名人で、プロになるかどうか注目されていた一人らしい。
結局トオルは、実業団でプレーは続けるものの就職を選んだが、彼の大学時代のプレイ動画は今でも数多く残っているということだ。
マックスはチャットでトオルがバスケをしていると聞いたときには、まだピンときていなかったが、今日顔を観て全盛期の彼を思い出し、検索して見つけたようだ。

〈イケメンバスケ選手 深瀬享ベストプレイ20選〉

その動画のタイトルだ。
下には関連動画として、〈△△大学バスケ部注目選手 深瀬享華麗なるダンク集〉など、いくつも表示されていた。


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