君はまだ甘い!
「今日も何度も電話がかかってきて。大阪に行くって言っちゃったもんだから、『遊ぶ時間があるなら、自分の話を聞いてくれ』って…」

わりとアグレッシブな女性のようだ。

(居酒屋での電話の相手だな)

「トオルくんは本当に未練はないの?」

「全く無いです。最近あまりにも執拗ですし・・・、今ちょっと女性恐怖症になってるんです」

そう言ってシュンとしたが、またハッとしたように顔を上げた。

「あ、でも、マヤさんは違いますよ!マヤさんは、何と言うか…面白い、あ、いや、癒されるというか…、安らぐ、というか…!」

言いながら、珍しく目を逸らして頭を掻く姿が、やけに新鮮に感じられた。

「面白い」という言葉に引っかかるが、必死に弁明している様子は可愛らしいし、何より、こんなにおっとり、ほんわかした雰囲気を纏う青年が、身長の差はあれど、あのごつい体格の帝王を軽々吹っ飛ばしたという事実に、何だかギャップ萌えしそうだ。

「ま、まぁとにかく、その彼女とは一度ちゃんと話し合った方がいいんじゃない?」

そんな気持ちを隠すように、慌てて話題を戻した。

「そうですね…。帰ったら話してみます」

トオルは少し吹っ切れた様子で、穏やかな笑顔に戻っていた。

まさかこの数ヶ月後に、自分もこの件に巻き込まれることになるとは、この時のマヤは想像もしていなかったが。



トオルの乗る新幹線の出発時刻が迫ってきたので、二人はカフェを出た。
駅に向かう途中で、大阪名物グリコの看板の前を通った。
写真を撮りたいとトオルが言うので、マヤは撮ってやろうとしたが、トオルは近くに立っていた女性に声をかけスマホを渡すと、

「マヤさん、こっち!」

と手招きし、グリコが背景になる位置で、二人並んでポーズをとることになった。

「後で転送しますね!」

嬉しそうなトオルの笑顔は、賑わうミナミの街に溢れるネオンよりも眩しく輝いていた。
< 37 / 82 >

この作品をシェア

pagetop