君はまだ甘い!

第11話 誕生日はクリスマス・イブ

ーーーおい!しっかりしろ!

ーーートオル!わかるか!?

ーーー救急車!!


(誰だ?人が気持ちよく寝ているのに…)

トオルは自分の体が突如ふわりと浮いた感覚で、目を覚ました。
随分寝たな…、と思ったが、それはほんの数分のことだったようだ。

バタバタと慌しい喧噪を感じながらも、また瞼が落ちそうになったところで、耳をつんざくようなけたたましいサイレンがそれを妨げた。

「大丈夫ですか?名前言えますか?」

白いヘルメットを被った、知らない男が自分に呼びかけている。

(ここは?…救急車…か?)

ぼんやりとした頭の中で、徐々に記憶が蘇ると同時に、左足に鈍い痛みを感じた。

(ああ。あのシュートの時、か)

自分よりも一回り体格の良い相手チームの選手が、自分を徹底マークしていた。
これを入れれば逆転、という場面で、トオルがダンクシュートをねじ込もうとジャンプした瞬間、体当たりでブロックされた。

(気を失ってた?…てことは頭打ったのか?)

すぐに冷静な思考が戻り、途中退場となった無念と、「生きてた」という安堵の気持ち、そして、疲れが一気に襲ってきて、また目を閉じた。




(トオルはバスケが上手だね~)

(シュート、カッコよかったよ!)

(あなたは母さんの自慢の息子よ。愛してる!)

久しぶりに夢に現れた母は、あの時のままで美しかった。

トオルがミニバスを始めたばかりの時、上手くできない歯痒さで、母親によく当たった。そのたびに、母はトオルを膝にのせ称賛の言葉を浴びせた。

「トオルはまだまだ上手くなるよ。母さんが言うんだから間違いない!」

死ぬ間際も、病室のベッドで横たわったまま、まだ小5だったトオルの手を握り、精一杯の笑顔で励ましてくれた。


(こんな時に夢に出るなんて、お迎えかよ!)

病室のドアがノックされた時、うっすら涙が出ているのに気づき、慌てて手でこすった。
< 70 / 82 >

この作品をシェア

pagetop