きみのためならヴァンパイア



あのピストルの中身が空だった?

てっきり、銀の弾丸がこめられていると思ってた。


「あれ、どこやったんだよ」

「あれは、返した、けど……」


なにか、引っかかる。

だってあれは、水瀬に渡されたんだ。

水瀬が、弾丸を忘れるなんてミスをするはずない。

それに水瀬は、私のことが心配だからと言って、あのピストルを持たせてきたんだ。

空っぽのピストルで身を守れるわけがない。

水瀬は一体どういうつもりだったのだろう。


「返したって、会ったのか? ハンターだろ?」

「う、うん」

「お前、家に連れ戻されてたかもしれないのにーー……」


紫月は言いかけて、口をつぐむ。


「……いや、すぐ追いかけなかった俺が悪い」

「そんなーーずっと隠しごとしてた私が悪いんだよ」

「それは俺だって同じだろ……じゃ、もう終わりな」

「な、なにが?」

「謝るの」


謝りたいことはたくさんある。

けれどもしかしたら、紫月も同じ気持ちなのかもしれない。

私からすれば、紫月が謝ることなんて思いつかないけど。

とにかく、お互い謝っていても話が堂々巡りするだけだ。


「……うん。わかった」

「じゃ、行くぞ」


がらんとした工場内は、私たち以外もう誰もいない。

紫月の背中を見つめていると、紫月は突然振り返って手を差しのべた。


「足元、危ねぇから」


手を取って、紫月の体温に直に触れる。

これからも紫月と一緒に歩けることが、うれしかった。


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