きみのためならヴァンパイア




「……ね、蒼生って、誰?」


繋いだ手の温もりにも慣れた頃、さっき考えていたことを思わず訊ねてしまった。

紫月は一瞬立ち止まり、それからまたすぐに歩き出す。

私に合わせてくれていた歩幅が、少しだけ広がった気がした。


「い、言いたくなければ、いいの、全然!」

「……いや、話す。もう隠しごとはしない」


きっと、あんまり話したいことではないのだろう。

それでも紫月が教えてくれるというのなら、私は受け止めるだけだ。

紫月の手のひらを、強く握る。

せめて、どんなことがあっても大丈夫だと示してあげたかった。


「蒼生は俺の弟。樹莉の同級生だった」


弟? でも紫月は、家族なんていないって言ってた。

それに、マスターも樹莉ちゃんも、紫月は一人だって。

そうなると、考えられるのはひとつ。

蒼生君は、今はもうーー。


「……そんな顔すんなよ。何も死んだわけじゃねーよ」

「えっ、あ、そっか……」


私、顔に出てた?

でも、蒼生君がいなくなったわけじゃなくてよかった。


「蒼生は、もうヴァンパイアじゃないだけだ」


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