きみのためならヴァンパイア
「で、もしかしたらそいつがこの辺をうろついてるかもしれないってことか」
「そう、そうなの。水瀬は本当に危険だと思うからーー」
気をつけて、と言いかけて。
私はヴァンパイアの王様に何を言おうとしているんだろう、と思い直す。
気をつけるなら、自分の方だ。
樹莉ちゃんのときも、陸君のときも、私を守ろうとしなければ紫月は怪我だってしなかったはず。
「だから、気をつけるね」
「は、お前が?」
「そ、そうだよ! せめてもう足を引っ張らないようにするから」
「そりゃいい心がけだな」
実際のところ、水瀬がどう動くか予想できない。
私のことなんて人質にすらしないかもしれない。
いつの間にか、紫月の家にたどり着いた。
結構歩いたとは思っていたが、その感覚は正しかったみたい。
玄関を開けると、ほっと安心する。
水瀬に会わずに帰れてよかった。
そう思ったとき、水瀬にまつわる話で紫月に言い忘れたことを思い出した。
リビングのドアを開けようとする紫月に、声をかける。
「そういえば、水瀬は元ヴァンパイアだってーー」
言いかけたとき、衝撃を受けると共に視界がぐらついた。
私は紫月に抱えられて床に伏せたことを数秒後に理解する。