きみのためならヴァンパイア
紫月の腕の隙間から見上げると、壁に小さなナイフが突き刺さっていた。
もし伏せていなければ、紫月か私のどちらかが血を流していたことだろう。
「残念、惜しかったな」
リビングから足音と共に、楽しそうな声が聞こえる。
聞き覚えのあるその声を発した人影が、私たちにゆらりと近づいた。
「みな、せ……」
「やぁ。おかえり、僕らのお姫様。そして、はじめまして。ヴァンパイアの王様」
ーー水瀬が、どうしてここに?
私が言おうとしたとき、紫月が私の前に出る。
「……お前が水瀬か。随分マナーのなってねぇお客様だな」
「それは申し訳ない。ヴァンパイアのマナーなんて知りたくもないからさ」
「……俺に何の用だよ」
「何の用って、聞くまでもないだろ? 僕はハンターで、君はヴァンパイアなんだから」
「だったらピストルを使えよ。陽奈に当たったらどうするつもりだった?」
「そうだな……そうなっても、僕は別に構わないよ。もちろん陽奈ちゃんは僕にとって大切だけど、なければそれはそれでどうにかするし」
やっぱり水瀬は、私を人質にするつもりすらなかった。
「事情があって、君に銀の弾丸は使えないんだ。みんなに渡したピストルにも銀の弾丸は入っていなかっただろ?」