きみのためならヴァンパイア



「……今晩は、風が強いな」


私は銃声の後で、父親が呟いた声を聞いた。

塀の外に降り立ち、ひたすらに走る。


……父親が撃った一発の銃弾は、私にかすりもしなかった。

けど、私にはわかる。

幼い頃から、ずっと見てきた。ずっと教わってきた。


ーー風が強いくらいで、私の父親が的を外すわけがないんだ。


だからこそまた、父親の存在が私にとっての呪いとなる。

父親が最後に私に向けた、ほんのわずかな親心だったのかもしれないもの。

……それに気づいたら、いけなかった。


私は、今度こそ家を出た。

暁という苗字を捨てた。

私に、家族はもういないんだ。


ーー父親がわざと私を撃たなかったことは、記憶の片隅にしまいこむ。

私の後をついてくる満月に、後悔なんてしないと誓おう。


私の道には、紫月がいればそれでいいから。

……私はもう、迷ったりしない。


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