きみのためならヴァンパイア
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ただひたすらに、夜道を走る。
暗闇の中を満月だけが照らしてくれる。
ヴァンパイアの街も、今となっては恐れる必要すらない。
……紫月。
紫月、今、どこにいるのーー?
もしかしたらもう、この街にはいないかもしれない。
紫月は人間になってしまったのだから、こんな危険なところにいる必要もないだろう。
けれど他にあてもなく、私は紫月の家に向かうしかなかった。
ーー紫月の家は、あの日のままだった。
リビングに面する窓ガラスは割れている。
明かりがついている様子もない。
玄関のドアノブに手をかけ、ゆっくりと引く。
鍵は、開いていた。
しんとした室内。
ぎしりと自分の歩みによって床が軋む音、それから、外から吹き込む風の音だけが時折聞こえる。
自分の他に、誰かがいるような気配は感じない。
……いるわけ、ないか。
半ば諦めたような気持ちで、リビングへ進む。
いろんな思い出の詰まった部屋。
いつも隣同士で座ったソファ。
ーーそこに、見つけた。