きみのためならヴァンパイア




ただひたすらに、夜道を走る。

暗闇の中を満月だけが照らしてくれる。

ヴァンパイアの街も、今となっては恐れる必要すらない。


……紫月。

紫月、今、どこにいるのーー?


もしかしたらもう、この街にはいないかもしれない。

紫月は人間になってしまったのだから、こんな危険なところにいる必要もないだろう。

けれど他にあてもなく、私は紫月の家に向かうしかなかった。


ーー紫月の家は、あの日のままだった。

リビングに面する窓ガラスは割れている。

明かりがついている様子もない。


玄関のドアノブに手をかけ、ゆっくりと引く。

鍵は、開いていた。

しんとした室内。

ぎしりと自分の歩みによって床が軋む音、それから、外から吹き込む風の音だけが時折聞こえる。

自分の他に、誰かがいるような気配は感じない。


……いるわけ、ないか。

半ば諦めたような気持ちで、リビングへ進む。

いろんな思い出の詰まった部屋。

いつも隣同士で座ったソファ。


ーーそこに、見つけた。


< 164 / 174 >

この作品をシェア

pagetop