きみのためならヴァンパイア



ーーソファの上で、紫月が眠っていた。

私は思わず駆け寄り、強く抱きしめる。


「紫月……っ」


呼吸による胸の上下、耳をすませば聞こえる心臓の拍動。

紫月がここに生きていてくれたことだけで、私はもう、それだけでよかった。


紫月の頬に手を添え、口づけをした。

おとぎ話であれば、ここで目を覚ましてくれるけど。

……私と紫月の人生は、おとぎ話じゃないようだ。


反応のない紫月からそっと離れようとしてーー突然、腕を引かれた。

そのまま、私の上半身は紫月の上に倒れこんでしまう。

紫月の顔を見ると、つやめく瞳と目が合った。


「しづーー」


私が名前を呼ぶ前に、顔を引き寄せられてキスされた。

……なにが起こってるんだろう。

紫月は人間になって、記憶をなくして、私のことも忘れてしまったはずなのに。

キスの仕方は、なにひとつ変わっていない。

紫月とこうするのは、うれしくて、幸せで、なにも考えてなんかいられない。


ーー私はただ、身を委ねた。


離れていた時間を埋めるように。

忘れてしまったかもしれない穴を埋めるように。

もう離れたりしないように。

また一緒にいられるように。

私たちのキスは、祈りにも似ている。


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