きみのためならヴァンパイア



どちらからともなく口が離れたとき、紫月が呟いた。


「……陽奈」


……私の、名を呼んだ。

紫月は、私の名前を呼んでくれた。


「紫月……どうして……」

「忘れてた方がよかったか?」

「そんなわけ……っ、そんなわけ、ないでしょ……!」


こらえていた涙が、(せき)を切ったように溢れ出す。


「悪い、泣くなよ。……言っただろ、陽奈のことを忘れたりしないって」

「それは、そうだけど……」


だからって、気持ちだけでどうにかなるようなものじゃないはずだ。

紫月が今、ヴァンパイアじゃなくなって、人間であるのは確かだと思う。

証拠に、ヴァンパイアの私からすると、紫月からはいい匂いがしているからだ。


ーー噛みつきたい。

そんな内なる衝動に、さっきからずっと抗っている。


それなのに一方の紫月といったら飄々(ひょうひょう)とした顔で、もう牙のない口を開いた。


「……銀の弾丸をくらったとき、俺、もう18歳になってたんだよ。出生時刻を過ぎてたの」


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