きみのためならヴァンパイア



「なんでよ?」

「中途半端に強くなった気でいる方が危ねーから」

「それは……そりゃあ、筋トレくらいでヴァンパイアを倒せるなんて思わないけど……でもほら、弱いヴァンパイアなら!」

「そんな弱い奴は、そもそも俺といるお前を襲わねぇよ」


それは、そうだけど。

でも、とにかく私は、なにかしていたかった。

自分にできることを見つけないと、不安になる。


「……でも、守られるだけとか、嫌だし」

「だけ、じゃねえよ」


紫月はそう言うと、部屋を出ていってしまった。

守る対価に私の血を飲んでるとでも言いたかったのかな。


私はまた、ひとり筋トレを再開した。

……とりあえず、腹筋6つに割ってやる。





ともりのバイトも少し慣れてきた頃、会いたくないお客さんが来店した。

無言で射殺すような視線を私に向けるあの子は、確か樹莉ちゃんという名前だったはず。

相変わらず勝手に隅っこの席に座る。

こんなときに限ってマスターは奥で寝てるし、紫月は裏で作業中だ。


「……紫月は?」


樹莉ちゃんは、いかにも不本意そうな冷たい声色で問いかけてきた。


「いっ、今、呼んできます――」


私が駆け出そうとしたとき、外で乾いた音が響いた。


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