きみのためならヴァンパイア
「なんでよ?」
「中途半端に強くなった気でいる方が危ねーから」
「それは……そりゃあ、筋トレくらいでヴァンパイアを倒せるなんて思わないけど……でもほら、弱いヴァンパイアなら!」
「そんな弱い奴は、そもそも俺といるお前を襲わねぇよ」
それは、そうだけど。
でも、とにかく私は、なにかしていたかった。
自分にできることを見つけないと、不安になる。
「……でも、守られるだけとか、嫌だし」
「だけ、じゃねえよ」
紫月はそう言うと、部屋を出ていってしまった。
守る対価に私の血を飲んでるとでも言いたかったのかな。
私はまた、ひとり筋トレを再開した。
……とりあえず、腹筋6つに割ってやる。
◆
ともりのバイトも少し慣れてきた頃、会いたくないお客さんが来店した。
無言で射殺すような視線を私に向けるあの子は、確か樹莉ちゃんという名前だったはず。
相変わらず勝手に隅っこの席に座る。
こんなときに限ってマスターは奥で寝てるし、紫月は裏で作業中だ。
「……紫月は?」
樹莉ちゃんは、いかにも不本意そうな冷たい声色で問いかけてきた。
「いっ、今、呼んできます――」
私が駆け出そうとしたとき、外で乾いた音が響いた。