きみのためならヴァンパイア
悩んでいると、ノックと共にドアが開いた。
「入りますよ?」
さっきの看護士さんだ。
私は慌ててベッドの傍の棚にピストルを放り込む。
「……えー、フィア……いいなず……ええと、彼とのお話はもう大丈夫かしらね。先生から説明がありますから、今呼びますね」
看護士さん、めちゃくちゃ動揺しちゃってる。
あからさまに、目を合わせてくれないし。
私、もしかしなくても許嫁いるのに婚約もしてるヤバい奴だと思われてるよね。別にいいけど。
すごく気まずい空気の中で少し待つと、お医者さんが来た。
私の受けた治療と、これからのことを教えてくれた。
私は輸血を受けて、お腹を縫ったらしい。
今のところ心配なこともなく、経過観察するそうだ。
癒着を防ぐため、無理のない程度に歩いた方がいいみたい。
とりあえず、一安心。
一人になった病室で、また水瀬のことを考えてしまう。
……うがいしたい。
ここが洗面台付きの個室でよかった。
動くとお腹の傷が痛むけど、動いた方がいいらしいし、意を決してなんとか立ち上がる。
「いっ……」
痛い、それもかなり。これで歩くとか、怖すぎる。
かたつむりくらいの速度で洗面台に向かう。
うがいを済ませて鏡を見ると、樹莉ちゃんにやられた傷が頬に残っていた。
……なんか、なにやってんだろうなぁ、私。
ちょっとだけ嫌になる。
起こったことも、自分のことも。
勝手に涙がにじんできて、それをこすったとき。
「おい」
頭に誰かの手のひらが置かれた。