きみのためならヴァンパイア
顔をあげると、鏡越しに紫月と目が合った。
いつの間に部屋に来ていたのだろう。
冷静な頭とは裏腹に、私の涙腺は不思議と勝手にゆるむ。
「し、紫月ぃ……」
「っ、どうした?」
紫月は私の様子に驚いたのか、言葉を詰まらせる。
私はそんな紫月の方に振り向いて、彼の胸に顔をうずめた。
なりふりなんて構えない。
自分がなんで泣いているのか、私はもうわかってる。
……でも、言わない。
ファーストキスはあなたがよかった、なんて。
そんなの、口が裂けても言えない。
「……なんでもない。……っ、なんでもないけど……ちょっとだけ、貸してよ」
「……いーけど」
私に胸を貸してくれた紫月の左手は、私の頭をやさしく撫でる。
まるで子どもにするみたいなその仕草が、よけいに私の涙腺をおかしくさせた。
◆
ひとしきり泣いて、いいかげん涙も落ち着いた頃。
ずっと無言で私に付き合ってくれていた紫月が、おもむろに口を開いた。
「……お前さ、なんか――」
「ん?」
見上げると、紫月は迷うように目を伏せる。
「……いや、なんでもねぇ」
「えっ、なに?」
もしかして、水瀬とかピストルに気がついた?
だとしたら――……だとしたら、なんだろ?
私は、紫月に何を隠したくて、紫月に何を望んでるんだろう。
自分で自分のことがわからなくなってきた。
「べつに……泣き止んだなら、寝とけよ」
紫月に促されて、ベッドに戻る。
椅子に腰かけた紫月は、ふいにこぼした。
「……そういや、引っ越すことにした」