きみのためならヴァンパイア
「――えっ……」
紫月が、引っ越し?
それはつまり、私の居場所がなくなるってことだ。
……けど、ちょうどよかったのかも。
いろんなことがあった。
それらはすべて、私が紫月と決別するために必要なことだったのかもしれない。
……でも、それでも。
「私、は……」
言いかけたとき、部屋にノック音が響く。
ドアを見ると、看護士さんが顔を出した。
「間宵さん、そろそろ面会時間終わりですよ」
……こんなタイミングで?
こういうのさえ、後押しされてる気がしてしまう。
私は紫月と離れるべきだ、と。
「じゃ、帰る。……あ、そういや、今晩――」
「……なにか、あるの?」
「満月がよく見えるってよ」
……意外な言葉。
紫月、そんなの気にするタイプだったっけ。
「……ロマンチックだね?」
「うっせぇ。窓、開けといてやるよ」
紫月は、病室を後にした。
広い背中からは、名残惜しさは感じられない。
彼が少し開けていった窓から、夏の生ぬるい風が吹き抜ける。
――紫月にとって私は、なんだった?
もし別れのときが来ても、そんなの怖くて訊けない。
私は心に隙間があいたみたいな気持ちで、もうこの先のことなんて考えたくなかった。