きみのためならヴァンパイア
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水瀬が指定した待ち合わせ場所は、寂れた公園だった。
近くに建物もなく、人も寄りつかない。
風に揺られるブランコが軋む音だけが、時折公園に気配を感じさせる。
実家から少し離れたこの公園で、幼い頃に水瀬とふたりでよく遊んだのを覚えている。
水瀬はベンチに座って、文庫本を読んでいた。
私に気がつくとそれを閉じて、軽く手を振る。
「やぁ。懐かしいよね、ここ」
「……そうだね」
思い出の公園にふたりきり。
別れを告げるには適したシチュエーションかもね。
「どう? 怪我の具合は」
水瀬は相変わらず人好きのする笑顔で、小綺麗なスーツに身を包んでいる。
私の怪我の具合になんて、興味ないくせに。
そんな本心は飲み込んで、水瀬のペースに巻き込まれないように気を使いながら言葉を選ぶ。
「……もう、大丈夫だよ」
「そう、よかったーーそれで、今さら僕に何の用かな? 帰ってきたくなっちゃった?」
「違う。これ」
私は、水瀬にピストルを差し出した。
「……これが、どうしたの?」
「前にも言ったけど、私には必要ない。だから、返しに来たの」
何も言わずに微笑んでいるだけの水瀬に、私は畳み掛けるように言葉を浴びせる。
「それと、私はもう家に帰らない。もちろんハンターになるつもりもない。暁なんて苗字は捨てる。……だから、水瀬と会うのはこれで最後」