きみのためならヴァンパイア
「ーーあぁ、そうなんだ?」
あまりにあっさりとした返事に、面食らった。
けれど、ここで水瀬のペースにのまれたらダメだ。
「そうだよ。だからこれ、受け取って」
「……嫌だ、って言ったら?」
「そっ、そしたら、捨てるーーか、壊す」
水瀬の言いそうなことだ。答えを考えておけばよかった。
「それはひどいなぁ。ダメだよ? 物は大切にしないとね。そこまで言うなら、ピストルは返してもらおうかな」
水瀬が広げた手のひらにピストルを置く。
肩の荷がひとつ降りた気分だった。
「……それじゃーー」
私が水瀬の元を去ろうとしたとき、腕を引かれて止められた。
「陽奈ちゃん、僕は君のこと、本当に好きだったよ?」
張りつけたような笑みで言われたって、信用できるわけがない。
仮に本当だったとしても、それで私の意志は揺らがない。
「……私はね、水瀬のこと、大っ嫌いだったよ」
水瀬の腕を振りほどく。
しかし、今度は立ち上がった水瀬に肩を掴まれた。
「陽奈ちゃんの気持ちはよくわかったよ。けどさ、寂しいから、これだけ言わせて?」
水瀬は私の耳元に顔を近づける。
「……またね」
その囁きに、返事はしなかった。
また会う気なんて、これっぽっちもなかったから。
私はもう、嘘をつきたくない。
帰って、紫月に本当のことを話すんだ。