人質公女の身代わりになったら、騎士団長の溺愛に囚われました

3 馬車の中で

 人質と聞いてローザは、牢獄に囚われるのではと怯えた。
 実際、ローザはその日のうちに馬車に乗せられて王城を離れることになった。
 ローザが緊張で身を固くしていた理由は、もう一つあった。一緒に馬車に乗ったのは、騎士団長だったからだった。
 ローザは確かに大公と血のつながりがあるが、愛妾にも及ばない腹から生まれた。もしローザの出自が知れたら、大公一族に捕まった母が罰を受けるのでは?
 うつむいたローザに、彼は向かいの席からそっと手を差し伸べるように言った。
「ローゼリシア公女。隠されて育ったあなたは、突然のことで戸惑われていると思うが」
 どうして人質にこんな穏やかに話しかけてくれるのだろう。ローザが不思議に思ってまばたきをすると、彼は言葉を続ける。
「私があなたを害する者からあなたを守るから。どうか怯えないでほしい」
 思わずローザが顔を上げると、彼と目が合った。
 騎士らしく鋭い目だが、その灰色は冬の木立のように優しかった。ローザがそう気づいたとき、彼はわずかに表情を緩めた。
「……やっとこちらを見てくれた」
 どうして彼はほっとしたように言うのだろう。ローザにはわからなかったが、すぐに身を害されるわけでもないらしかった。
 ローザの心も少しだけほどけて、ローザは彼に問いかける。
「私は……牢獄に囚われるのでしょうか」
 それを問うのは勇気が必要だった。彼は少し考えて、ローザに答える。
「ある種の牢獄ではあるかもしれない。私の側から離すわけにはいかないから」
「あなたの側?」
 彼は馬車の窓から外を見て、ローザに目を戻す。
「着いたようだ」
 彼に示されてローザが外を見ると、ちょうどどこかの門をくぐるところだった。
 それはローザが見たことがない、盾を構えたような堅牢な作りの門だった。
 騎士団長はすぐに門から目を離していた。彼はローザをまっすぐにみつめて告げる。
「あなたにはこれからここで暮らしてもらう」
 馬車はなお走っていて、彼の声を鈍く響かせていた。
「私の……妻として」
 ローザが息を呑んだとき、門扉は降りて固く閉ざされる音が聞こえた。
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