彼女はまだ本当のことを知らない
「あら、それはどういう意味ですか?」
「二人は同じ職場だから知り合ったんですよね」
「ええ、私達もそう聞いております」
「今のはどういう意味ですか?」

 当然親たちはその意味を知りたがった。

「な、何でもないわ、私が職場で家のことを話しているのを聞いたランスロットが、偉いねって褒めてくれただけよ」

 きっかけが下着の試着だったなんて、それはさすがに恥ずかしくて言えない。

「そうなの? ランスロット」
「…さあ、どうでしょう」

 夫人の問いかけに、ランスロットはとぼけた様子で答える。

「他に何かあるのか?」
「ランスロット」

 匂わせる言い方に、皆の視線が私達に集中する。私が困るようなことを言ったりはしないだろうと信じていたが、万が一ということもある。

「彼女の言ったとおりです。俺は耳がいいから、たまたま彼女が実家にお金を送っている話を同僚達と話しているのを聞いたんです」
「そうか。そう言うことならそう言えばいいのに」
「そうよ。何か他にあるのかと思ったわ」
「すみません。でも、それを聞いてますます彼女のことを素晴らしいと思ったのは事実です。タニヤは見た目だけではなく、両親想いで中身も素晴らしい女性です。俺は素敵な『番』を見つけられて幸せです」

 そう言って彼は私にウィンクをした。

「まあ、獣人にとって『番』というのは無条件に本能で惹かれるものだから、私達の場合は結婚してから互いのことを知るようになった。お前達はそれとはちょっと違って、そうやって育んでいく愛もあるのだな」

 侯爵が感慨深げに私達を見つめる。
 本能で「番」を見つけた獣人は、本能に従って相手を求める。ランスロットは出会ってすぐに私のことを「番」だと認識していたが、私が獣人ではなく人間だからと、本能を押し殺して私を見守ってくれていた。
 私物を収集したり、私に近づく男性を裏で牽制したりしていたようだが、それもすべて私のことを想ってくれていたから。
 ただ、私の副業のことを知った後は少々強引だったけど。

「タニヤ、獣人の…俺の愛は重い。獣人ではない君には、それが負担に思えるかもしれない」

 ランスロットが私の手を取り、真剣な目で私を見つめる。

「でもこれだけは覚えていてほしい。君を裏切ることは決してない。この先何年経とうとも、それは衰えることもない。むしろ年とともにより増すだろう」
「ええ、ランスロット。わかっているわ」

 獣人は一度「番」と定めた相手には、命の続く限り愛を注ぐ。

「愛しているよ、タニヤ」
「私も、愛しているわ」
 
 注がれる愛は絶えることなく、私を満たす姿が思い浮かぶ。
 行き過ぎる言動も、愛あればこそだ。
 正直、そんな無条件の重い愛を、自分が受け止められるのかと不安に思うことはある。
 でも、ただ純粋に私を愛情の籠もった目で見つめる彼の目と視線を合わせれば、そんな不安もきっとすぐに消えて無くなるに違いない。
 そして私達は両親達が見ている前で、再び熱い口づけを交わした。
 そんな私達を置いて、いつの間にか両親達は部屋を出て行った。
 やがて私は二人のために用意された寝室へとランスロットに抱きかかえられ、運ばれた。

 獣人の愛は重い。「番」に対する執着はすさまじい。
 獣人のいる騎士団で働いていたし、同僚からもよく聞かされていた。
 すでにランスロットとも体を繋げていたし、頭では理解しているつもりだった。

「愛しているよ、タニヤ。俺の愛を受け止めて」

 私という「番」をようやく手に入れたランスロットとの蜜夜は、それから三日三晩続いた。

 私は獣人の執愛というものの本当の意味を、まったく理解していなかった。
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