【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
 そう付け足すよりも前に、ラインヴァルト殿下の手が私の手の上から退いた。

 一抹の寂しさを抱く。でも、彼の手はすぐに私に触れた。……今度は、髪の毛に。

「じゃあ、そうだな。……俺がテレジア嬢のことを呼び捨てにすれば、平等か?」

 悪戯っ子のように笑った彼の言葉を、すぐには理解できなかった。何度かぱちぱちと目を瞬かせて、言葉の意味をかみ砕く。

 ……呼び捨て。平等。それは、間違いないのだろうけれど。

(ら、ラインヴァルト殿下が、私のことを呼び捨てになさるの……?)

 そんなことをされたら、心臓が持ちそうにない。

 胸の鼓動が早くなって、どうしようもなく恥ずかしい。……まだ呼ばれてもいないのに。

「だから、テレジア。……俺のこと、もっと親しみを込めて呼んで」
「……う」

 甘く囁かれるようにそう言われて、胸がぎゅっと締め付けられる。

 ここまで言われたら、呼んでもいいんじゃないだろうか? それに、ラインヴァルト殿下だって私のことを呼び捨てになさっているもの……。

「……ラインヴァルト、さ、ま」

 ゆっくりと、彼のことを呼ぶ。ちょっと声が震えているのは、ご愛嬌。

 だって、まさか王太子殿下のことをさま付けで呼ぶなんて。……想像も、していなかったんだもの。
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