捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
 それから二時間ほどが経ち。

 私と彼の目の前には、大量のグラス。もれなく、全部空っぽだ。

「というわけで、私、今、行く当てがないんです」

 何杯目かわからないお酒を飲んで、くすくすと笑う。ある程度酔いが回ってきたらしく、状況に反して気分はいい。……状況は、本当に最悪だけれど。むしろ、最悪を飛び越えているけれど。

「……今後、どうするかとか、決めてるんですか?」
「しばらくは宿暮らしですねぇ。あ、もう一杯、今度は果実酒で!」

 正直、これだけ飲んだら宿暮らしなんて出来るわけがない。所持金的な問題で。宿だって、無料じゃないんだから。

「ふふっ、なんだか、楽しい」

 実家ではお酒は嗜む程度しか許されなかった。だから、自分の限界を試してみたくて、飲んで飲んで飲んでみたかった。

 今、ちょっとした夢が叶っている。……相変わらず、状況は最悪だけれど。

「はい、果実酒……なんだけど」
「……うん?」
「お嬢ちゃん、もうやめたほうがいいよ」

 カウンター越しに、中年の女性が表情を歪めてそう言ってくる。

「あんた、身寄りないんだろ? そんな調子だと、どこぞの輩に襲われるよ」

 まぁ、確かにそれもある……んだろうけど。

「私みたいな輩を襲う物好きなんていませんから~」

 容姿だけは極上だって言われるけど、中身は気が強くて反発心も強い。可愛げなんてかけらもない女だ。

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