捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
「嬉しいなんて、思ってませんよね」

 指摘された言葉に、冷や汗が垂れた。彼の言葉が、真実だったから。

「こんな称賛の言葉、聞きなれていらっしゃるんでしょうね。……そう、俺は思います」
「……そう、ですか」

 それ以外の言葉なんて返せない。彼の指摘はすべて正解だから。間違いじゃないから。

「なんて、こんなこと初対面の男に言われても困りますよね。……忘れてください」

 その人は、店員にお酒を注文している。……こんな真昼間から飲むのか。……なんて思ったけれど、壁にかかった時計が示す時間は夕方にさしかかっている。

 お酒を頼んでも、おかしくはない時間帯だ。

「……あの、私も、お酒ください」

 手を軽く挙げて、お酒を要求する。お酒を飲むと持っているお金が減るけれど、この際飲まないとやってられない。

「あなたは……」
「付き合ってください」

 ジュースの入ったグラスを空にして、私は彼に視線を向ける。

 彼が、驚いたのがわかった。

「さっき、困っちゃったので。その分の……」
「償い、でしょうか?」

 ……なにも、そこまで言っていないんだけど。

 心の中だけでそう呟きつつも、私は頷いた。男はそんな私の態度に気を悪くした風もなく、「喜んで」と言った。
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