捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
(って、初対面の人にこんなことを言っても、困るわよね……)

 見知らぬ女が傷ついているところなんて、見ていて面白いものじゃない。だから、私は目元をごしごしと拭う。

「すみません、なんか、重たい話をしてしまって……」

 痛々しい笑みを浮かべて、私は立ち上がった。このままここにいてはいけない。だって、このままだと――この人に、迷惑をかけてしまう。それだけは、容易に想像がつく。

(見知らぬ人に迷惑なんて、かけられないわ……)

 その一心で足を前に勧めようとすると、手首を掴まれた。……驚いて、そちらに視線を向ける。そこには、やっぱりあの男。

「別に、俺は困ってませんよ」

 彼は、淡々とそう言う。なんだろうか。多分、根本が優しい人なんだ。

 余計に迷惑をかけられないと思ってしまう。

「……優しいのですね」

 少しだけ口元を緩めて、そう言ってみる。彼は、顔を歪めた。なんだか、苦しそうな表情だ。……多分。

「俺は、優しくなんてない」

 小さな声量で呟かれた言葉。驚いて彼を見つめる。相変わらず目元は見えない。でも、その前髪の隙間から見える目は、鋭い色を帯びているような気がしてしまった。

 心臓をぎゅっとつかまれたみたいな感覚に、陥ってしまう。

「あなただから、優しくしているんです」
「……は」

 言葉の意味がわからなくて、ぽかんとしてしまう。

 私たちの間に沈黙が走る。食堂の中は騒がしいのに、喧騒が遠のいていく。まるで、二人きりの世界になったような感覚になる。

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