捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
「な、にを」

 自分の声が驚くほどに震えている。この人は、一体なにを言っているのだろうか。

 意味の分からない私に、彼が立ち上がって近づいてくる。至近距離に迫った、彼の顔。前髪の隙間から見える目が、私を射貫く。

「あなたさえよければ、俺の家に居候しませんか?」

 ……かといって。その言葉は予想外すぎる。その所為で目を瞬かせる私を、彼がまっすぐに見つめ続ける。

 なんだろうか、この空間は。

「どういうこと、ですか……」

 この人は、この男は。なにを企んでいるんだろうか。

 そもそも、この状況下で見知らぬ人についていくという勇気は生憎私にはない。

 ……たとえ、そこそこ親しくなった人だったとしても、だ。

「俺、一人で暮らしているんです」
「……はぁ」

 意味がわからない。いきなりそんなことを言われても、知らない。それが、正直な感想。

「ただ、俺の住んでいるところはだだっ広い邸宅でして。……部屋は、有り余っているんです」
「……は、はぁ」

 もう「はぁ」しか言葉が出てこない。

 だだっ広い邸宅。部屋が有り余っている。それは、わかった。うん、それくらいならばまだ理解できる……んだけれど。

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