捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
 そうしていれば、不意にぐぅっという音が聞こえて来た。

 ……その音が私のお腹の音だと気が付いて、顔にカーっと熱が溜まる。

「その、なんでも、なくて」

 今にも消え入りそうなほど小さな声でそう言う。すると、ヴィリバルトさんはきょとんとしていた。

 その後、今思いついたかのように手をポンっとたたく。

「お腹が空いたのですね。じゃあ、食事にしましょう」

 彼はなんてことない風にそう呟くと、私に視線を向ける。

「身支度が整ったら、来てください。食事をする場所は廊下を右に突っ切って、一番奥です」
「……え、あ、はい」
「じゃあ、俺は先に行って待っていますね」

 にこりと笑みを浮かべたヴィリバルトさんは、すたすたとお部屋を出て行った。

 残された私は、ぽかんとする。開いた口がふさがらないとは、まさにこういうことなのだろう、なんて。

(お腹の音には、触れなかったわ……)

 もしくは、触れるのはタブーだと思ったか、だ。

 まぁ、触れないでくれたのは素直にうれしかったので、そこに関して私ももうなにも言わないでおこう。

 その一心で、私は寝台から起き上がって、部屋をぐるりと見渡す。そして、部屋の隅にある鏡台らしきものに近づいた。
< 25 / 65 >

この作品をシェア

pagetop