捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
「埃はかぶっていないわね」

 ぽつりとそう零す。手入れが行き届いていると思った。

 ……ここには、ヴィリバルトさん以外に誰か住んでいるのだろうか。一瞬そう思ったけれど、確か彼は一人暮らしだと言っていたような気も、する。……酔っていたから、記憶があいまいなんだけれど。

「ということは、彼はこのお部屋とかも、全部一人で掃除しているのかしら……?」

 まぁ、そこは本人に聞くのが一番だろう。

 自分自身にそう言い聞かせて、私は髪の毛を手櫛で整える。身に纏っている衣服は昨夜から変わっていない。

 ヴィリバルトさんは、単に私をここに運び、寝かせただけなのだろう。……なんというか、迷惑をかけてしまって本当に申し訳ない。

「……えぇっと、確か」

 食事をするお部屋は扉を開けて、目の前の廊下を右に突っ切って、一番奥……だったわね。

 何度か頭の中で確認して、私はお部屋の扉を開ける。すると、一番に視界に入った廊下は――とても、煌びやかだった。

(……なに、これ)

 まるで贅を凝らしたかのような装飾たち。床には塵一つない。壁には風景画が飾られていた。

 ……絵の下に書いてある名前は、私でも知っているほどに有名な人の名前。
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