捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
 そんな風に思いつつ視線を下げていれば、ふとヴィリバルトさんが声を上げた。

「そういえば、これから行く当てはあるんですか?」
「……いえ」

 彼の問いかけにゆるゆると首を横に振る。

 そうだ。今の私は、そんなことを考えている場合ではないのだ。

(住む場所とか、働く場所とか。探さなくちゃ……)

 貴族の娘を雇ってくれる場所なんて、あるのだろうか……?

 という不安を抱いて、頬を引きつらせてしまう。

(それに、いつまでも宿を借りているわけにもいかないわ。お金ばかり、かさんでしまう)

 ある程度はお金があるとはいえ、一生宿暮らし……なんていうのは、絶対に無理だ。本当に無理だ。それくらい、私にもわかる。

 つまり、今私がするべきは。

(お仕事を見つけて、アパートを借りるということ)

 ある程度のお仕事があれば、アパートだって契約できるだろう。

 よし、決めた。

「ただ、この後お仕事を探して、アパートでも借りれたら……とは、思っています」

 パンをちぎりつつ、私はそう伝える。

「しばらくは宿暮らしになるでしょうが、それも仕方がないことですし……」

 雨風をしのげるだけ、マシというものだろう。

 私が肩をすくめてそう続ければ、ヴィリバルトさんが少し考えこむような素振りを見せた。
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