捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
「……実は俺、考えていたことがあって」

 彼がお水の入ったグラスを手に取って、真剣な面持ちで私を見つめてくる。

「メリーナさんさえよければ、ここに滞在しませんか?」

 ……が、その言葉の意味がすぐには理解できなかった。

 どう、いうことなんだろうか。

「え、えぇっと」
「いえ、深い意味はないです。どうせ、部屋は有り余っていますし」

 彼はなんてことない風にそう言うけれど、そんな理由で居候するのも、ちょっと悪いというか。

「それに、今すぐに働く場所を見つけようとしても、きっとうまくはいきません」
「……それは、そう、かもですが」

 貴族の令嬢が出来る仕事なんて、たかが知れている。彼は、そう言いたいのだろう。

「だから、ここで仕事に就くための練習をするんです」
「……練習、ですか?」
「はい。これでも俺は一人で暮らしていますし。家事系統ならば、ある程度教えられます」

 ヴィリバルトさんが、口元を緩めてそう言ってくれる。

 長い前髪の所為で、目がどんな感じなのかはわからない。けれど、悪いことを考えているようには思えない。

(そりゃあ、私になにもしなかっただけ、信頼できるんだけど……)

 酔い潰れた私になにもしなかった。それだけで、信頼は出来る。
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