捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
 そのタオルで胸元を拭いていれば、ヴィリバルトさんが残った食器をてきぱきと洗い出す。

 手慣れた手つきだった。無駄のない動き。汚れ一つ一つを逃さないとばかりの洗い方。

「上手ですね……」

 余計に私の不慣れさが目立つんだけど……と思っていると。ヴィリバルトさんがふっと口元を緩めたのがわかった。

「これも全部慣れです。……大丈夫、あなたには伸びしろがありますから。いずれ上手になります」

 優しい声でそう言われて、私は少し戸惑って頷いた。

 こんな風に男の人に優しくされたの、初めてかもしれない。

(大体の男の人は、下心があったもの。なのに、ヴィリバルトさんは心の底から親切心だけで行動している……)

 それがくすぐったいのに、嬉しい。胸がむずむずとする。

「さて、この後はどうしますか。俺的には、よかったら買い物でも……と思うのですが」

 食器を洗い終えたヴィリバルトさんが、私のほうに顔を向けてそう問いかけてくる。

 ……買い物、かぁ。

「滞在するにあたって、日用品は必要でしょう。男の一人暮らしだったので、あなたには不便でしょうし」

 まぁ、うん。それは、わかる……のだけれど。

「でも……お金が」
「それくらい俺が出しますよ。これでも生活には困っていないので」

 彼はあっけらかんとそう言うけれど、甘えてばかりはダメだってわかる。

 自立しなきゃいけないことはよくわかっているんだもの。
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