捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
「……忘れたくないって言ったら、どうしますか?」
「へ?」

 予想もしていなかった言葉に、瞬きを繰り返す。

「あなたの言葉を一言一句間違えず、脳内に刻み込みたいって言ったら――どう思いますか?」

 視線がまじりあう。私の胸が高鳴る。心臓の音がとても大きくて、ヴィリバルトさんに聞こえていないことを祈った。

「メリーナさん」

 ヴィリバルトさんが私のほうに一歩近づいてくる。縮まった距離に、無性にドキドキした。

 なんでだろう。元婚約者にも、こんな気持ちを抱いたことはなかったのに。

「ヴィリ、バルトさん」

 声が震える。彼に見つめられると、視線が逸らせない。逸らすことは許さないって、伝えてくるみたいだから。

 それから、何分経ったんだろう。現実には十秒ほどだったはず。けど、それくらい長く感じた。

「――なんて、すみません」

 彼がそっと身を引いた。

「ちょっとからかいたくなっただけです。俺のほうこそ、忘れてください」

 忘れられるわけがない。当然だ。

 こんなに胸が高鳴ったのははじめてだから。

(どうしてこんなにドキドキしてるの――?)

 私はただ彼に助けてもらっただけだ。

 好きになっていいはずがない。それに――私は婚約破棄されたばかりの女。

 絶対迷惑になる。

 この気持ちは、気のせいだ。気のせいに決まっている。
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