捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
 近くの街で買い物を済ませ、帰路に就く。

 隣を歩くヴィリバルトさんの手には、大きな紙袋。中には日用品と数日分の衣類が入っている。

「本当にすみません。たくさん買っていただいて……」

 衣類はある程度の数あったほうがいいだろうと、彼はほかにも注文していた。それらはあとで邸宅に届けてもらう予定だ。

「いえ、俺が好きでしていることなので気にしないでください」

 どうしてだろう。ヴィリバルトさんの声を聞くと安心する。声のトーンは心地よく、話し方が穏やかだからなのかな。

「ヴィリバルトさんって、街の人と親しいんですね」

 お店が並ぶ通りに入ると、ヴィリバルトさんはたくさんの人に声をかけられていた。だれもが笑顔で声をかけていて、彼に人望があるのがよくわかる。私だって貴族令嬢だった。人の笑顔が作り物か本物かくらい見抜ける。

「みなさん、とても良くしてくれるんです。俺みたいなよそ者にも優しくしてくれて、ありがたい限りです」

 貴族の中には、自分が良くしてもらって当然だという人がいる。元婚約者もそうだった。

 そんな人たちに囲まれてきたからこそ。私はヴィリバルトさんという人がいかに素晴らしいのかがわかる。

「いつか、優しくしてくれた人に恩返しできたらいいんですけどね」

 彼のぽつりとしたつぶやきに、私は静かにうなずいた。

 私もいつか、ヴィリバルトさんに恩返しがしたい。この気持ちに嘘なんてない。
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