捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
(私が会ってもいいのかな……?)

 迷った。同居するからといって、なにもかもを知る権利なんてない。親しき中にも礼儀あり。ある程度の距離は必要だ。

 どうするべきかと考えて、足を止める。近づくべきか、ここで待っているべきか――。

(もしも、私に会ってほしくなかったら、ここで待つように言うよね?)

 だから、大丈夫――と、自分に言い聞かせる。

 足を前に勧めていくと、来客の姿がはっきりしてくる。背丈は高く、がっしりとした体格の男性だ。

「――で、いつ頃になる」

 耳に届く真剣な声。これは聞いていいのか、ダメなのか。

「現状わかりません。俺はギードに無理なんてさせたくない」
「その気持ちは尊重する。しかしだな……」

 たぶん、お仕事の話だ。

「……無理強いする権利など、私にはない。だが、前向きに考えておいてほしい」

 相手の言葉にヴィリバルトさんは返事をしなかった。

 同時に、強い風が吹く。風は私の帽子をさらって、道端に落ちた。……最悪なことに、ヴィリバルトさんたちの側だ。

「――すみません!」

 男性が私の帽子を拾う。謝りながら近づくと、男性の視線が私を捉えた。

「キミは」

 男性は目を見開く。まるでお化けでも見たみたいな表情だ。私はお化けなんかじゃないのに。
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