捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
 どうして自分がこんなことを言ったのか、自分でもわからなかった。

 だって、今までの私なら表面上の付き合いだけで満足していたから。

 ……元婚約者とだって、家族とだって。表面上だけ付き合っていた。

 深く知ろうなんて思いもしなかった。

 でも、この人のことを見ていると、今まで知らなかった感情が胸の中に芽生えていく。

 どうしてなのかは、わからないけど。

「そりゃあ、出逢ったばかりの女に言われても困るって、わかっています。でも――」

 それに、私は居候。現状彼のお荷物でしかない。

「……知りたいって、思ってしまうんです」

 出た声は、自分でも驚くほど小さかった。

 恐る恐る顔をあげると、彼が私を見ている。気まずくてそっと視線を逸らした。

「困ったり、しませんから」

 彼の返事も、とても小さかった。

「だから、そうですね。少しずつ互いのことを知りましょう。たくさん話をして、たくさん一緒にいて――」

 彼は「たくさん一緒にいて」という。でも、この関係は長くは続かないって、わかっている。

 いつまでも居候でいるなんて、私が耐えられないから。
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