捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
「……はい。たくさん、お話ししましょう」

 だけど、今は彼の言葉に甘えていたかった。

 人に甘えるなんて、一体いつぶりだろう。頭の片隅に浮かんだ疑問を振り払い、私はぎこちなく笑う。

 ひときわ強い風が吹いて、彼の前髪が崩れた。

「――っと」

 慌てて前髪を押さえたヴィリバルトさんは、前髪を整えた。

「すみません。……見てない、ですよね?」

 恐る恐る問いかけてくる彼に、私は返事ができなかった。

 だって、前髪の下にある彼の素顔を、私ははっきり見てしまったから。

(この人は――)

 どうして素顔を隠すんだろう。

 その疑問が大きくなっていく。

(だって、この人――すごく、美しいお顔をしていた)

 隠すなんてもったいないほど、美しい顔立ちだった。

「俺、自分の顔が好きじゃなくて。……本当、お見苦しいものをお見せして」

 肩をすくめた彼の言葉は頭に入ってこない。

 いろいろな意味で衝撃的だったんだもの。

(この世で一番美しいと言っても、過言じゃないのに)

 彼はその顔が嫌いだという。

 もしかしたら、このお顔が原因でなにか嫌なことがあったのかもしれない。

 だから、私は無理を言うことはできないのだ。

(――そのお顔を、もう一度見たいって思うのは、いけないこと)

 私だって顔で嫌な思いをしてきた。……なら、彼の気持ちはわかるはず。

 無理を言うなんて、許されない。許されないのよ。
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