捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
 肩の下まで伸びた金色の髪は緩くウェーブを描いている。男にしては長い髪だけれど、特に気にすることはない。

 ただ、一番気になったのは――その前髪の長さだ。

(前、見えているの……?)

 まるで目元を隠すかのように伸ばされた前髪。

 私から彼の目が見えないように、彼も私が見えていないのでは……と思ったものの、今はそんなこと関係ないと思いなおす。

「……どうぞ」

 正直、ほかにも空いている席はある。なので、わざわざ隣でなくても……と思う気持ちも、ある。でも、大衆食堂ってこういう場所らしいから。待ち合わせしているわけでもないので、私は素直に頷いた。

「ありがとうございます」

 その人は、なんのためらいもなく私の隣に腰を下ろした。その動きはとても滑らかで、無駄がない。野暮ったい見た目とは全然違う、美しすぎる動き。ぼうっと見惚れていると、彼が私のほうに顔を向けた。

「……なにか?」

 彼が小首をかしげて、そう問いかけてくる。

 私は慌てて視線どころか、顔ごと逸らす。……無性に、照れ臭かった。

(……このお人、多分ただの一般人じゃない)

 私の直感が、告げている。この人は――いわばお金持ちなんだって。それも、成金とか。そういう部類じゃない。動きを見ていれば、容易くわかる。

 ……ただ、社交界でこの人を見た覚えがない。もしも、お忍びで容姿を誤魔化しているのならば、当たり前なんだけど……。

「いえ……その。とても、動きがお綺麗だったので。自然と、見惚れてしまって……」

 真実を紡いでいるのに、何処となく言い訳がましく聞こえてしまう。……私の必死な言葉が、それを加速させているのかも。

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