メンヘラ・小田切さんは今日も妻に貢いでいる
小田切さんは心配性
「―――――人、多い……」
「多いですね……」

明日は、バレンタインデー。
前日の今日は、バレンタインのコーナーに人が沢山犇めき合っている。

翠李も亜夢に手作りチョコを作るべく、仕事終わりに材料を買いに来ていた。

冬菜と一緒に来て、客達に押しつぶされながら商品を選ぶ。

「翠衣ちゃん。とりあえず、欲しいの言って?
私が取ってあげる!」
小柄な翠李のために、冬菜が言った。

「すみません!お願いします!」
翠李は、持っていたメモ用紙を冬菜に渡した。

他の客の邪魔にならないように、端の方に寄って待っていると……

冬菜がカゴを持って戻ってきた。
「お待たせ!
左が翠李ちゃんで、右が私ね!」

「はい!助かりました!
ありがとうございます!」

購入して、休憩のため近くのファミレスに向かった翠李と冬菜。

「お疲れ様!」
「お疲れ様です!」

「でもまぁ、本番は明日だけどね!(笑)」
「フフ…そうですね(笑)」

「亜夢とは、どう?」
「あ、はい!幸せにしてもらってます!」

「フフ…そっか!
でも、反対じゃない?(笑)」

「え?」
「“亜夢が”幸せにしてもらってるんじゃない?(笑)」
冬菜がクスクス笑う。

冬菜は、亜夢と敏郎の大学の同期。
三人は、一緒に行動していた。

というより“恐ろしい容姿の亜夢と敏郎に話しかけることができたのが、冬菜だけだった”という表現が正しい。

冬菜には三人の兄がいて、父子家庭で育った。
更に、父親は怖くて厳しいと有名な工務店の社長。兄三人もそこに勤めていて、冬菜は恐ろしい男達に囲まれて生きてきたからだ。

「そんなことないですよ!」 
「でも、ほんとびっくり!
“あの”亜夢に恋人どころか、奥さんが出来るなんて!!」 

「亜夢さんは、素敵な人ですよ!
ただ…愛情表現が、少しだけ極端というか……
色んなことの積み重ねが、今の亜夢さんを造ったってだけで、本当は…誰よりも綺麗な人です…!
真っ直ぐ過ぎるくらい、真っ直ぐな人!」

「フフ…そうね!
純粋ではあるわね!
そうゆう意味では…!」

「はい!
―――――あ、そうだ!
それで…冬菜さんに、大変失礼なお願いがあるんですが……」

「ん?」

「これ…安川さんに渡してもらえませんか?」

翠李が、小さなバレンタインの箱をテーブルに置く。

「あー、トシにバレンタインね!」

「はい。
こんなの、冬菜さんに頼むの…本当に失礼だとは重々承知してます。
でも、亜夢さんとこれからも仲良くしてほしくて、その……」

「フフ…構わないわよ!
ありがとう!」

「さ、さすが!お心が広い!
あ!“くれぐれも”亜夢さんには内緒で……」

「フフ…了解!あいつ、すぐ嫉妬して壊れるからね(笑)
翠李ちゃん命だもんね~(笑)」

冬菜は微笑み、そのプレゼントをしまった。
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